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Yoshitaka Amano (2/4)

天野喜孝(あまの・よしたか) アーティスト
DEVA ZAN

日本的なるもの

「僕はまだ、日本のことがよく判らないんです。」

自分のことを“アメリカかぶれ”と表現する天野喜孝は、躊躇なくそう認めた。それどころか、本来、日本的なモノを作るのもあまり得意ではないのだという。しかし、『ファイナル・ファンタジー』で西洋的なファンタジーの表現をひたすら追求し、世界中にファンを獲得した彼が、最新作『DEVA ZAN』のなかで挑んでいるのは、日本を含む東洋世界の神話そのものだ。

「僕ら日本人がヨーロッパなんかに行くと、まるでファンタジーのように見えるのは当たり前のことで、それぞれの文化環境のなかで街が作られているから、 異質空間へ文字通りトリップした気分になる。そういう意味で、日本人が西洋的なファンタジーの世界をつくっても、それは純粋な意味での西洋じゃなく、どうしても東洋文化のフィルターを通して見る二次的ファンタジーになる。だったら、今度は日本人として東洋のファンタジーを描いてみたいと思ったんです。」

SANDMAN

「以前、仕事で『源氏物語』に挿絵を付けるというのをやったんだけど、1200年前の資料を調べてみたら、オリジナルの絵巻物なんかがまだ残ってるんだよね。だから、それと同じことをやるんだったら僕がやる意味がないと思ったので、現代的なファッションの影響とかも好き勝手にいれて、デタラメにやってみた。そしたら、それでも不思議と“日本的なもの”が浮き出て来たので、なんでかなあ、と 。」

「僕の父が静岡で漆塗りの下駄を作る職人で、自宅でいつも仕事をしていたものですから、物心のついた頃から身の回りにある日本の伝統工芸品に触れていました。今から思うと、その頃からすでに無意識のなかに何か“日本的なもの”が刷り込まれていたんでしょうね。西洋文化でも、自分がいいと思うものは、アールヌーボーのように日本の浮世絵の影響を受けているものだったりする。 結局、文化が行ったり来たり循環して生まれるものに魅力を感じるのかもしれません。」

イギリスの作家 Neil Gaiman が1999年に発表したファンタジー小説 『The Sandman: The Dream Hunters』にイラストレーションを提供するなど、古の時代にはファンタジーそのものであったはずの東洋と西洋との文化的交歓を、天野喜孝は創作を通じて数多く経験して来た。

「『The Sandman: The Dream Hunters』には、狐の霊と恋に落ちるお坊さんが出てくるんだけど、狐の霊ってことで、京都の伏見稲荷大社 を見学に行ったんですよね。明治維新前までは境内にお寺が一緒に建っていたらしくて、いまでも神仏を一緒に祀っていたころの名残がある神社ですよね。でも、よく考えると、あれ?ってなる。神様と仏様っていうのがいっしょくたになっている、いいとこ取りみたいなね。(笑)日本人にとってはその辺の区別意識って、ある意味で本当にいい加減というか。外から入って来たものをどんどん内に取り込んでいっちゃう。」

「京都という街は、そういう意味で日本の手本みたいなところですよね。東京とは違って古いものが沢山残っているから、歴史的なものを今でも間近に見ることもできる一方で、新しいもの、流行のものだって、うまく取り入れている。だから、僕自身も京都には定期的によく通っています。お寺の襖絵を見たり、仏像を見たりして、やることはベタなんだけど、やっぱり日本のルーツだからね。何度行 っても新しい発見がありますよ。」

「ただ、“日本のルーツ”と言っても、僕は日本の神話や民話をたくさん調べてきたわけじゃないし、実のところ、日本の本質ってなんだかよくわからない。ただ、何かを創作をすると否が応でも日本になってしまう。それは東洋世界、西洋世界、どちらを描いたとしてもつきまとうものなのです。たまたま、それが僕の場合は日本であるだけなのであって、そこに大きな意味はないと思っています。」

創作のインスピレーションを得る為に、“日本のルーツ”京都へしばしば足を運んでいる天野氏だが、今の彼が目指す境地は、すでに日本という国、東西の隔たりなどという枠組みを超えて、命の根底を繋ぐ普遍的な神話の世界にあるようだ。

「僕は、東洋的であれ西洋的であれ、ビジュアルを手段として使って、神話というひとつの“真実”を表現したいんだと思う。神話というのは、別に古いもののことだけを指すわけじゃなくて、現代にも神話はある。仏教の曼荼羅は、宇宙の仕組みという“真実”をビジュアル化したものでしょう。龍だって、誰も見たこと想像上の生物だけど、その時代の“真実”をみんな信じていたわけで。現代の3次元においてでたらめと思われても、違う次元の世界として好き勝手に描けば、誰にも文句言われないでしょう。」

「神話を通して今僕が伝えたい“真実”というのは、本当に美しいものは作られるのではなく、自ら生まれる、ということかな。たとえば、本物の動物の骨とレプリカの骨があるとする。本物の骨は、しっぽの先まで綺麗にできている。それは、ゼロから発生している自然そのもの。細部から全体へと広がって行くからだね。逆に、レプリカは細部を埋めて行く作業だから、どうしても不自然になる。どんなに完璧に作り込んでもね。」

「人間の作ったものでも、本当に長い時間を経て、風化し、自然と同化するくらいまでになったら、美しいよね。ヨーロッパの古い街並みなんていうのは、ほとんど自然みたいだと思う。人間だって、生まれたままが自然で美しい。それでもやっぱり、人間の作るものだけが不自然であるという“真実”は、きっと変わらないだろうね。」

(取材•文 飯干真奈弥)

  Fushimi Inari
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