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Mamoru Oshii (1/4)

押井守(おしい・まもる) 映画監督
Ghost in the Shell

一期一会の男

押井守は、地図が読めない。上下が逆になると、とたんに自分の現在位置がわからなくなってしまうほど、地図が苦手なのだ。そんな彼にとっての最高の地図は、ドラゴンクエストの地図だという。つねに自分中心に世界が動いてくれるからだ。

「今日はスタジオ(Production IG.のある三鷹)だから来れたけど、初めていくところなんていうのは、だいたいたどり着けない。だから、知っているところにしか行かない。家とスタジオの往復と、その間に本屋があるくらいで。時々、どこそこに来いといって地図とかリンクを送ってくる人がいるけど、この世の誰もが地図を読めると思っているんだろうね。僕にとって、いま自分がどこにいるかを確認できない地図は意味がないんだよ」

「アニメをやっている人間には、僕みたいなやつが多い。なぜなら、いつも自分が世界の真ん中にいる仕事をしているから。自分の立ち位置を俯瞰で見るということがなかなかできない。だから、アニメーターたちをぞろぞろ連れてロケハンなんか行ったらもう大変で、みんなただの迷子の集団。向かう途中でだんだん脱落者が出始めて、そのうちばらばらになって、みんな行方不明になる。戦車なんか見学に行ったら、いつのまにか誰か姿が見えなくなって、必死になってよく捜したら、あとになって戦車の腹にもぐったまま見つかるという具合に。」

Mitaka Station

「そういう人間には、地図というよりも、むしろ時間的なナビゲーションが必要なんだな。何時までにここに来いとか、何時までに仕事を終わらせろとかね。今は世の中にガイドが溢れ返っているけれど、いろんな情報とか選択肢とかなくていいから、とにかくそれぞれの生活パターンにあわせて、必要最低限の情報だけに絞ってもらったほうが理解できる。みんなが使える情報なんて幻想だ。」

押井守は、意外なほど無抵抗だ。少なくとも、日常生活においては。まるで飼い犬のように首輪をつけられ、飼い主の引っ張る方向へただ付いていく。寄り道を軌道修正されても逆らわない。そんな彼の妻は、地図や路線図を見て旅のシミュレーションをするのが大好きだというから、夫婦はうまくできている。

「正直言って、旅行もあんまりしないし、行くとしてもなりゆきまかせで行っちゃうので物事がごたつく。だから一緒に行く人が全部行程を決めて連れて行かれるのがいい。映画祭なんて本当は行きたくないけど、仕方なく連れていかれたら、ほとんど言われるがまま。メディアがカメラ構えてこっちに向かって目線くれ、なんて言って来ても言う通りにする。そんなかっこわるいポーズしたくない、とか抵抗するのが面倒だから。」

「東京では電車にしか乗らない。ぼーっと乗っていれば、何も考えなくても目的地に連れていってくれるから。電車の中では、本を読んだり、妄想したりして自分の時間が持てる。世の中とまったく関わらない、純粋に自分だけの時間。だから僕は、移動している時間は自分でなにも決定せず、全部他人任せでいたい。」

「僕は電車の路線図すら怪しい人間だから、クルマなんて運転するのは家の周りだけ。できればクルマやカーナビには運転まで全部やって欲しい。現状のカーナビは外部の資料を提出するだけだから、いちいち反応しなくちゃならない。でも僕は運転するときに自分で責任を持ちたくない。いつまでに、どこへ着きたい。それだけを実行してくれて、あとのことは何にも考えなくてもいいように。 」

Production IG

押井守は、なかなか会えない男だ。それは、彼が偉大すぎる映画監督だから、ではなく(もちろんそれもあるが)、物理的に捕まえることが難しいのだ。なにしろ携帯もメールも、仕事の都合で最近はじめたばかり。今から20年近くも前に、まだ誰も見たことのないネットの世界を鮮やかに描き出した奇才とは思えないくらい、押井守は“オフラインな男”でもある。

「今の人間は起きてから寝るまでずっとアクティブに活動することを求められる。下手をすると、寝ている時間まで活用して何か覚えようとかいろんなことをする。だからこそ、とくに今の時代の人間に必要なのは、自分固有の時間を持つことだと思う。僕は自分の時間を常に確保するようにしているし、実際に、今のところそれが許されている。でも、そういう状況を自分で作ることが大事だと思う。」

「今はアポがとれないと人間扱いしてもらえないけど、昔は、アポなんて不確定なものはなかった。約束したって、現場に相手が現われなければ諦めるか、ひたすら待つか、それだけのこと。だからこそ、会えたらそれだけものすごく大事にするわけで。一期一会という言葉はそういうとこから生まれてきたんだからさ。」

「世の中が、どんなに便利になったって、結局はすべて気持ちの問題。今日だって、ここには20分くらい遅刻してきたわけだけど、こっちは朝8時30分からずっと起きていたのであって。体操したり、パン食ったり、シャワー浴びたり、無駄なこといろいろやってるうちに、もう何時にここを出発する、という意識がすでにないんだよね。今日は朝から暑いから行くのやだな、って心のどこかで思ってたのかもしれないけど」

「で、やっと準備を始めようと思ったら、急に話の長い人から電話がかかってきて切れなくなってしまって、実際は汗だくになって急いで来たんだけどさ。途中で(秘書からの電話で)携帯がブーブー何度も鳴ってるんだけど、不思議と出るたびに切れちゃうんだな(でもかけ直さなかった)。そういうわけで、僕はアポの取れない人間第一号みたいになっていて、そのおかげで自分のためだけの時間がたっぷり確保できているんだけどね。」

押井守とは、一期一会の男だ。

(取材•文 飯干真奈弥)

  Mitaka
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