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KOJI MORIMOTO (2/4)

森本晃司(もりもと・こうじ) 映像作家/演出家/DJ
Tree House Car

箱男たちの次元爆弾

森本晃司が今も敬愛してやまない作家、安部公房の小説と出会ったのは、18歳のとき。高校を卒業後、大阪でデザイナー専門学校に通っていた頃のことだ。ノーベル賞に最も近いと期待されながら急死した孤高の天才が言葉によって創り出した異次元空間へと、ふいに引き込まれた。それは森本にとって、その後の世界観をガラリと変えてしまうほどの衝撃的な出来事だったという。

「こんな小説読んだことない、ってとにかく驚いて。こんなにすごいSF、なんで今まで読まなかったんだろう?って、それから夢中になって全部読みましたね。考え方とか視点とか、全部ひっくり返される感じで。とても影響を受けました。」

「あり得ないようなものすごくヘンな状況を描いているのに、それがまるで見て来たかのようにリアルに表現されていて。ああ、この人は本当に “見えてる” んだなあと。着目するところがとにかく面白くて、そういう視点をもっていること自体がすごい、と思って読んでいました。」

Koji Morimoto

「そういう意味で言うと、いまのテレビドラマでやっているような話の結末なんて、本当にどうでもいい。現実にある話を、なんで映像にするの?っていう感じ。わざわざ作るなら、普通のドラマをやっている背景でバリバリのSFをやるとか、思い切りぶっ飛ばして欲しいのに。」

確かに、森本の作品には、安部公房の小説にも繰り返される「存在の危うさ」がしばしば描かれているように見える。オムニバスアニメGenius Party Beyondに収録されている森本の名短編「次元爆弾」においても、安部公房の「箱男」さながらのシュールで不条理な設定と、どこか不安定なキャラクター描写のなかに、それは静かに記号化されている。とくに、止まっていても動きが継続しているように見える「途中の絵」と表現される作風は特徴的だ。固定したバランスから自ら逃れるように、森本の視点は常に浮遊している。

「たとえば、本屋で写真集なんかを逆さまにしてみて、それで気に入った写真を見つけるというのをよくやりますね。逆さにすると、重力が逆になるわけですよ。そうすると不思議なバランスが生まれる。その画を見るというよりは、 そこにバランスを見いだすというか。」

「自分のものばかり描いて、自分の頭のなかから出られなくなったりしないように、他の人の作品を別の角度で見て、“ああ、こういうのもありなんだな”っていう視点を見つけに行くようにしてますね。」

「僕は穴を覗くのが好きで。穴があるとどうしても覗いてみたくなる。だから、子供たちの通学路に覗き穴を用意しておいて、その上に“覗くな”って書いておいたらどうするかな?なんて考えたり(笑)。道を歩いていて、何の役にも立ってないような通路とか壁とか見つけると、“どうしてこんなところに、こんなヘンなものがあるんだろう”とかって思いながら、そういうモノを探すのが好き。」

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2年間の大阪生活は、安部公房との出会いのほかにも、さまざまな“目から鱗”的体験を彼にもたらしたようだ。生まれ育った環境とは対極にあるような都市に憧れ、とにかく“一番明るいところ”へ一度行ってみたかったのだという。

大阪はとにかく、街そのものと、そこにいる人たちが本当に面白い場所。まさにキャラクターの宝庫で、漫画みたいなオッサンとか、コメディアンみたいな人とかがそこらじゅうにたくさんいて、人間観察ばっかりやってましたね。ああ、このオバチャンいい味出してるなあ、とか思いながら(笑)。浮浪者やヤクザと、景気のいい金持ちが一緒に同居しているような、バイタリティある街だった。」

なかでもとくに記憶に残っている街といえば、あの西成だという。日本最大の日雇い労働者とホームレスが集う街として、また、日本で唯一暴動が起こる街として、海外メディアにもしばしば取り上げられている西成。 近年ではその極端に安価な物価環境から、外国人バックパッカーたちの来訪が増えているそうだ。

「一泊500円くらいの労働者向けの安宿は 、看板に“コンセントあります”“ドアあります”“壁あります”っていう売り文句が書いてある(笑)。露店では靴が一足から売っている。暴動に備えて、警察署が檻の中に入っている。まさに、世の中の価値観が全部ひっくり返ったような街だね。あるとき、車道に足を投げ出して寝ているオッサンがいてね。“危ないっスよ”って声をかけたら、 “轢かれるの待ってるんだ”って言う(笑)。 」

「あそこでは、みんなが一番安全だと思ってる場所が一番危険と言われてる。たとえば、ホームレスのオッサンが“見て見て”と服をめくって体にいっぱいついた傷跡を見せてきて、“病院が一番怖い”と言うのね。どうしてかっていうと、風邪を引いて病院へ行くでしょ。すると、即入院だと言われて、 若い研修医たちに手術の練習台にされるんだ、と。社会保険もなければ、家族とも無縁で、地球上から抹殺されても分からないような身分の人たちだから 。でも、彼らはそこの病院に行くしかないわけ。」

「僕らがこれまで教えられて来たこと、教科書に書いてあったことは本当だったのか?って、すべてを疑いたくなるような場所。背後からガツンとやられるみたいなね。いまでも当時の風景は鮮明に憶えているから、いつでも描き出せるよ。そういうのをこれから作品としてやってみたいね」

日常に空いた「穴」から非日常を覗くもの、覗かれるもの。その境界線が、安部公房が示したように限りなく曖昧で、根拠に乏しいものだということを、私たちはみな知っている。箱男たちが闊歩する西成の路上で森本が覗いたその「穴」は、予定調和を裏切り、頼りない常識をひっくり返して見せる森本作品の導火線に、今も繋がっているのかもしれない。

(取材•文 飯干真奈弥)

  Koji Morimoto
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