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Mamoru Hosoda (3/4)

細田守(ほそだ・まもる) 映画監督
Summer Wars

つわものどもが、夢の跡

ありふれた日常を肯定する力。それは、細田監督が大切にしてきた映画の公共性にとって欠かせない“意思”のようなものだ。と同時に、そのありふれた日常を送っているはずの私たち観客にとっても、人生という自分たちのストーリーの延長線上、あるいは平行線上に存在する歴史や未来に寄り添うための、やさしい原動力になっている。けれども、その力を映画に込める試みは決して容易なものではない。

「映画というのは、もともと異端が主役なんですよ。ヤクザとかモンスターとか、日常ではありえないものを描くのが普通になっている、あべこべの世界。だから、その、非日常が普通である映画という枠のなかで、ごく普通の日常的な主題を描くっていうのは、本当はとても勇気のいることで、僕の映画作りに対する姿勢としては、かなりアバンギャルドなことをやっているつもりなんです。」

「どうせ映画を作るなら、やはり革新的なことをやらなければ面白くないと思う。でも僕の場合は、その革新という意味合いが、映画の常識のなかで一周しているものだから、人によっては、僕がものすごく保守的な思想の持ち主なんじゃないか、って思われるんだけど、実はそれは逆の「逆」だからそう見えるだけで。だって、ヤクザの話を描いた方が映画としては普通でしょ?(笑)」

Summer Wars

「“人生は無常だ”なんていうことを映画のなかで言う方がありきたりで、話の結論としてはつまらないんですよ。 人生を否定する力のほうが、肯定する力よりも強いのは当たり前のことで。否定する方が楽だし、表現としても目立つと思う。でも僕はそうじゃなくて、肯定しがたいと思っているものをわざわざ肯定する力強さを持ちたい。それにやっぱり、沢山の人が関わって一緒に作った映画なら、沢山の人に見てもらいたいし、そうやって、やっと世に出た映画が、“人生は無常だ”なんていう、しょうもない結論ではならないと思うんですよ。」

あえて挑戦的に肯定すること。その姿勢において、細田監督の志は一貫している。2009年の監督作品『サマーウォーズ』でも、〈親戚〉という、昨今の劇場映画ではなかなかお目にかかれない”日常の代表格”のような主題を、見事に力強く肯定してみせた。そこには、監督自身の結婚を契機に結ばれた新たな家族の存在と、彼らの愛する信州上田という特別な土地との出会いがあったようだ。

「結婚するまでずっと、親戚というのはいがみあうものだと思っていたんですよ。自分の家の経験なんかも含めて、まあ、それが人間の限界なのかなあ、と(笑)。ところが、うちの奥さんのところは親戚一同ものすごく仲が良いんですよね。“え、こんな家もあるんだ…”と思って、正直びっくりした。しかも、その人たちがいっぺんに自分の家族になってしまうわけでしょう。 なんか、そのことが面白くて、俄然、興味が湧いてしまったんですね。」

「たぶん彼らの仲がうまく行っているのは、お義父さんが婿養子のせいじゃないかと思いますね。奥さんの実家は女系家族なので、お爺ちゃんも、お義父さんも、女性にかしづくタイプというか、女性たちが主人公の家庭なんですね。今では帰省するたびに、お義父さんが老後の趣味づくりのために毎年新しいことに挑戦しているのを見るのが面白い。一昨年は生ハムづくりで、去年は葡萄酒づくりだったんですけど、自家製だからなのか、まるでドブロクのように濁った自家製赤ワインを飲まされまして…(笑)そして今年のテーマは養蜂らしいです。そうやって自分の手で何かを作り、味わえるという日常は実に贅沢だな、と思います。」

「上田の親戚たちが、なんとなくみんな穏やかでおおらかな感じがするのは、気候のせいもある気がしますね。長野県と言っても、上田はとても雨や雪が少ないところで、日本の中でも晴天率が高い場所なんです。だから、実は昔から映画の撮影ロケ地によく使われている。なにか特別な風景があるわけではないけど、天気がいつも良くて、ずっと晴れているので、雨待ちをしなくて済むからでしょうね。そういう晴れ具合が、上田の精神性に繋がっているように思います。」

穏やかな気候と土地柄のほかに、信州上田の魅力を語るとするなら、それはこの土地に住む人たちが祖先から受け継いで来た歴史への誇りと愛着だという。とくに、戦国時代の名武将として名高い真田昌幸(真田幸村の父)とその一族は、いまでも地元でその武勇伝が語り継がれている上田の英雄だ。

Summer Wars

戦国時代の末期、水戸から関ヶ原の戦いへと援軍を送るために西へ向かっていた徳川秀忠軍が、総勢4万もの軍兵を率いて中山道を進んで行く途中、敵方についていた真田家の上田城へと攻め上がって来た。わずか2000人ほどの兵力しかなかった真田昌幸軍だったが、知将として知られた昌幸の巧みな策略で秀忠軍を翻弄し立ち往生させたあと、見事に撃退して城を守り抜いたという逸話は、上田の出身ならば子供の頃から大人たちに聞かされてみな知っているのだという。細田監督にその話を聞かせてくれたのも、上田育ちの奥様だった。

「到底敵いそうもない大きな勢力に対しても、決して引けを取らずに、小っちゃいながらも力を合わせて自分たちの土地を守ったという先祖たちの歴史に、上田の人たちはみんなどこかで誇りを持っている。そして、大きなものにも負けないという気概のようなものが、今でも引き継がれている気がします。」

「場所というのは、 そこにいま見えている風景だけではなく、その裏にある歴史を知ることで愛おしく見えてくるものですよね。そして、そこに住んでいる人たちまでもが、なんだか頼もしく見えてくる。上田もそんなところです。」

「上田には、真田家が上田城に移る前に使っていた砥石城跡という山城跡があるんですが、『サマーウォーズ』で言うと、陣内家の屋敷があるところの舞台に選んだところで、ちょうど上田の市街が一望に見渡せる地上800メートル位の高さにある城跡なんです。ただし城跡と言っても、今は何にも残っていなくて、赤松が生えているだけ(笑)。それでも、歴史に思いを馳せながら眺めると、風景が全然違って見えるから不思議ですね。ああ、ここにいたんだなあ、って。」

夏草や つわものどもが 夢の跡。かつては戦国武将たちが眺めていたに違いないその日常風景をも力強く肯定するとき、細田監督の目に映っているのは、無常の逆の、そのまた「逆」、の世界なのかもしれない。

(取材•文 飯干真奈弥)

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