in collaboration with
NAVIelite

Mamoru Hosoda(1/4)

細田守(ほそだ・まもる) 映画監督
Wolf Children

まだ地図にはない「どこか」へ

「僕は、自分自身の物語にはあまり興味がないんです。」

今年の夏、“おおかみおとこ”を愛した一人の女性と、その子供たちの暮らしを描く静かな物語で日本中の観客を泣かせた細田監督は、自身の日常を振り返ってそう語る。

「映画のなかの物語や人生がいつもドラマティックで面白いものになって欲しいとは思っているけれど、それと同じように自分の人生の物語を、ことさらに大げさに仕立てようという気持ちはさらさらないですね(笑)。僕の日常はいたって普通です... お酒は好きですが、飲酒運転もスピード違反もしたことないですし。」

これまでも細田作品に参加してきたプロデューサーの斉藤優一郎氏とともに〈スタジオ地図〉という新たな制作拠点を高円寺に構え、その一作目として『おおかみこどもの雨と雪』を世に送り出した細田監督。その語り口は、厳しいアニメ業界の荒波に揉まれてきたはずなのに、まるで、毎日ぶらりと沖に出る舟乗りみたいに穏やかでさりげない。

Wolf Children

「〈スタジオ地図〉を作ったのも、実は、やむにやまれず、という感じなんです。これまで、東映アニメーションだとか、マッドハウスだとか、そういう大きな会社の軒先を借りてきたわけですけど、これからはますます作品主体で、自分にとってベストな環境を持たないと、これから先もずっと映画を作り続けることはできないと思ったんですよね。」

「アニメという分野でできることは、商売的にも作品的にも、もうやりつくしちゃったんじゃないか、とみんなが思っているかもしれないけど、僕自身は、アニメという技法を使って映画を作るうえで、まだまだやれることがたくさんあるし、実はいろんな可能性があると思ってます。」

「なんかこう、まだ線の描かれていない白地図のうえを、作品をつくりながら埋めて行くような、“あ、こんなところに、まだ新しい場所があったのか”というように発見をしながら、これからフロンティアに踏み出そう、という気持ちを、この〈地図〉という名前に込めました。」

実際の生活でも、どこか知らないところへふらっと出かけることが実は好きだという細田監督。『おおかみこどもの雨と雪』を完成させた後も、北陸にある叔父宅から東京までクルマで戻る途中に、気ままなぶらり旅をしてきたのだとか。

「息抜きや、時間のあるときに、あてどない旅をするのは結構好きです。行き先を決めずに高速に乗ってみたり。とりあえず出かけて行って、夕方になっていきなり宿泊先を探し始めたりとか。それで、偶然なんか思わぬ場所にたどり着いて、なにかを発見するというようなことも、よくやります。」

「映画をつくるにしても、その先にあるなにか、というものにいつも興味を惹かれます。たとえばラブストーリーにしても、男女が結婚するまでの話というのを描くのが普通だけど、僕はその先の、“結婚してからどうなるのか”のほうに興味がある。『おおかみこどもの雨と雪』というのは、まさにそういう話です。『時をかける少女』のタイムリープする能力にしても、それをなぜ、どうやって手に入れるたかということより、それを使って何をするのか、どこへ行くのか。そういう、まだ見たことのない“その先”を見たい、と思うんですね。」

  決して地図通りではなく、ただ、日常の延長線上に密かに隠れている境界線を、さりげなく超えていく細田アニメの主人公たち。絵を描くこと、アニメを作ることは、細田監督の地図をどんなふうに広げて来たのだろうか。

「もともと中学生くらいの頃から一人で紙に絵を描いてアニメを作ってたんです。だから、大学一年くらいまでは、なんでも一人でやるほうが好きだったですね。でも、いったん誰かと一緒に何かを作ると、それはもう、一人では体験することのできない喜びというか、比較出来ないものになるんですよ。」

Inokashira Park

「この業界に入ってからは、同世代のアニメーターたちの間でも、“あいつだけには負けたくない”みたいなライバル意識というのは確かにあったと思う。でも、やっぱりアニメや映画というのは一人では作れないし、みんなでやるものだから、単にお互いにライバル心だけでやっても、どうしようもないわけですよね。」

「映画を作るには、志を一緒にする人が必要になってくるわけで、そういう人とどう出会えるか、っていうことが大事。一緒に映画をやるべき人、なんていうのはそうそう近くにいるわけじゃないけれども、そのなかでひとりひとり出会って、“絶対この人となんかやりたい”って思うことのほうが大きいと思う。その出会いを次につなげて仲間を増やして行くほうが重要だと思っています。」

自身より一回り近く歳若い気鋭のプロデューサー・斉藤氏という仲間を得て、新たな地図探しの旅をすることになった細田監督。“おおかみおとこ”と人間のハーフという、ありそうでなかったキャラクターの発想をどこで得たのだろうか。

「僕は長いこと吉祥寺に住んでいまして、よく井の頭公園に散歩に行くんです。公園沿いのスターバックスにはテラスがあって、タバコを吸えるのでよく利用するんですが、あるときそこに座って公園へやってくる人たちをなんとなく眺めていたんですよ。そしたら、本当に「犬連れ」と「子連れ」が多いところでして... ちょうど 同じくらいの背丈の犬と子供たちが行き交うのを見ているうちに思いついた、というわけです。(笑)」

そう言って笑った細田監督も、ついに9月末に一児の父となった。子連れでの井の頭公園デビューもそう遠くはなさそうだ。

(取材•文 飯干真奈弥)

  Wolf Children
NEW PEOPLE

NEW PEOPLE Travelは、国境を越えて活躍するクリエイターたちをゲストに迎えて、日本の風景や旅、そしてクルマについて情報を発信するウェブマガジンです。世界が認めたビジョナリーたちだけが持つ独自の視点から日本の姿を語ります。 www.newpeople.jp

#Japan
#Travel
NAVIelite

NAVIelite(ナビエリート)は、カーナビのプロフェッショナル、アイシンAWが立ち上げたスマートフォン向けプロダクトの第一弾です。豊富な機能を持つ車載ナビがそっくりそのままiPhoneアプリになりました。新しいウェアラブルナビゲーションの世界をお楽しみ下さい。dribrain.com